僕の45年間-1682011/07/25 13:33

 傍聴人席には5~6人の年配者が陣取っていました。中には映画のシーンのように編み物をしている婦人もいました。
 
 やがて、書記官のような二人が入廷し、裁判官の真下の席に付き、何やら書類に目を通し始めました。続いて検察官が一人着席しました。

 「Order, Order 静粛に」という声がし、裁判官たちが席の後ろにある大きなドアから入廷し、席につきました。椅子の数と同じく3人でした。僕は一瞬、あっけにとられました。裁判官たちはTVドラマと全く同じに白い毛のかつらをかぶり、重々しい法衣をまとっていました。これが交通違反の裁判かと思えるくらい「本格的」は舞台装置でした。女性裁判長は木槌を2度、コーン、コーンと打ち鳴らしました。

 「これから大坂忠の交通違反の容疑について開廷する。はじめに、宣誓をして下さい」
 書記官の一人が立ち上がって僕の前に立ちました。手には黒皮表紙の分厚い聖書を持っていました。
 「この聖書に左手を置いて、右手を挙げて真実のみを語ることを宣誓してください。私の後について言ってください」
 「裁判長、僕は真実のみを語ることを約束します。しかし、聖書に手を置くのは全く意味がありません。何故なら僕はクリスチャンではありませんから聖書は僕にとって何の意味もありません」

 裁判長は左右に座っている他の裁判官に何やらひそひそと話しはじめました。傍聴席からはざわめきが聞こえ始めました。
 「Order, Order 静粛に」とドアのところに立っていた官吏が叫びました。それでも傍聴人たちには全く予期しない僕の発言だったらしくなかなか静かになりませんでした。

 僕は僕で自分自身の発言に少なからずびっくりして「これは予定外だ」と心の中で呟きました。
(僕がクリスチャンの洗礼を受けたのはこの事件から6年位後のことでした。)

写真はパリの屋根たち。2008年11月

僕の45年間-1692011/07/25 22:52

 「よろしい。それでは右手を上げるだけでよろしい。私の後について言ってください。私はこの法廷で真実のみを話します」
「私はこの法廷で真実のみを話します」
「よろしい。では、あなたの名前、生年月日、住所を述べて下さい」
「僕の名前は大坂忠です。・・・」
「よろしい。では、検察官は容疑を述べよ」

「大坂忠は〇月〇日〇時〇分ころ〇〇の住所で本人所有の乗用車から降りたところで職務質問を受けた。当人は仮免許証を保有し、同乗者は国際免許証を保有するという状況であった。本来、仮免許証保有者が運転をすることができるのは我国のfull license を保有する者が同乗している場合であって、国際免許証を保有している者は該当しない。よって、大坂忠の容疑は交通法規〇〇違反である」

「大坂忠は容疑者であるが同時に弁護人でもある。はじめに、容疑者としてのあなたに答えてもらいたい。容疑人席に立ってください」
「はい」
「あなたは検察官が言う容疑を認めますか」
「いいえ、僕は無罪です」
「分かりました。では、弁護人の席に付いてください」
「はい」
「弁護人は弁明をして下さい。この場合、あなた自身のことを語るのですが主語はHe(彼は)で話してください」

「はい。裁判長。分かりました。はじめに、彼は検察官が述べたような状況で彼自身が保有する自動車を警察官の職務質問を受ける直前まで運転していたことを認めます。しかし、何の根拠があって交通法規〇〇違反であると言えるのかは皆目分かりません。
彼は仮免許証を郵便局で受け取った際に、同時に受け取った注意書と仮免許証に記載されている文言を大変注意深く読みました。ここにそれらがあります。彼は仮免許証で自動車を運転する際にはfull licenseを保有する者が同乗していなければならないことは十分に理解していました。しかし、彼に与えられた政府発行の2つの文書、つまり、仮免許証とその注意書には国際免許証はfull licenseに該当しない旨の記載はありません。もし、検察官が言うように国際免許証はfull licenseに該当しないというならばそのことが前述の仮免許証とその注意書に明確に記載されていなければならないはずです。英国政府はいろいろな国が発行する国際免許証を正規の免許証と同等と見なしているからこそ運転を許可しているのであると思います。国際免許証が、英国政府が発行するfull license に該当しないというなら、国際免許証で英国の公道を運転することは極めて危険な行為であると言えるのではないでしょうか。
万が一、検察官が言う容疑が交通法規のどこかの条文に基づいているならそれを明確に示して欲しい。その上で弁護人は改めて、英国政府の不手際、つまり、国際免許証がfull license に該当しない旨を前述の仮免許証とその注意書に明確に記載されていないことを告発したいと考えます。以上です」

写真はパリ市内の比較的新しいビル内のキャフェ。2008年11月
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